「剣道範士 岩瀬 鉾太郎翁の像」(1981

パリから帰国して最初につくったのがこの胸像である。

田舎の実家のすぐ近くに「養心館」と言う剣道の道場がある。若かりし頃の父も通ったと言う

道場の創始者この胸像の人「岩瀬鉾太郎 範士」だった。剣道の世界では何だかとても偉い人

なのだそうである。

この仕事を頂いた時はまだお元気で高齢ではあったがその堂々とした姿は

そこに座っているだけで周囲の空気を引締めるものがあった。

何枚かお顔を描かせてもらった。

そして胸像制作担当の方から渡された、たった1枚の写真。

古ぼけた小さな白黒写真を前に、これを作って下さいとのことだった。

裏に52歳と書いてあった、しかも写っているお顔は斜め横顔。

そのたった1枚の小さな写真を頼りに制作の日々が始まった。

胸像は顔が似ていることが大事だ。その為ににも何かもっと52歳の頃の資料がほしかった。

剣道の防具を借りることは出来たが、直接参考に出来る写真は他になかった。

もうとにかく「似ている」言われるように作るしかない。プラスあの威風堂々としていて

剣道の道ひとすじに生きてきた人の真摯な雰囲気をどこまでかたちにできるか、 粘土を付けては

壊し
付けては壊しの連続だった。

小さな写真のさらに小さなお顔から、顔の造形を読み取り仕上げるのは容易ではなかった。

直接、岩瀬範士を知る人や父に時々見てもらっては似ているかどうか確かめた。

「似ている、岩瀬先生だ!」と言ってもらえるまで続いた。

ご縁があってこのような仕事を頂制作することができたこと

今更ながらに感謝するばかりである。

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